· By OHNISHIKOHEI
野生酵母との出会い
ホップのことについて書くことが多いのですが、元々僕は微生物の分野が好きでこのクラフトビール業界に入り、ブルワリーで働いています。
大学はバイオサイエンスを学び、大学入学時は植物の品種改良に興味がありました。しかし、学年が上がるにつれ、学ぶことは専門的になっていきました。それに連れて、自分は将来何がしたいのか、何の仕事をしていきたいかという選択に迫られて、それに対して自問自答していた時期がありました。それが大学2年生の始めの頃です。
その頃はただ漠然と、
ワクワクする事がしたい。
物作りで創造的な仕事がしたい。
発酵食品が好き。
の程度の事しか頭になかったので、じゃあとりあえず面白そうなアルバイト、発酵食品を作るアルバイトとかないかなーと探していたところ、長浜浪漫ビールでの醸造補助の仕事を見つけました。そこでビールを作ることの嬉しさやワクワクを感じ、今でもこの仕事にやり甲斐を感じています。
4年生には酵母を使用して人の寿命に関わる遺伝子を解明する研究室に入り、僕自身は卒論で「地域から分離した野生酵母で日本酒を作る」ということを地元の酒造メーカーと共同研究でやっていました。
日本酒に関してはど素人でしたので、1ヶ月間酒蔵でインターンさせてもらい、日本酒について色々教えて頂きました。早朝の極寒の中での水作業はブルワリーに比べて非常に過酷環境だなと記憶しています。
ビールで使われる上面発酵酵母と清酒酵母などはSaccharomyces cerevisiae と呼ばれる酵母ですが、特に清酒酵母はSaccharomyces sake と呼ばれることもあります。根本的な構造、生理現象は清酒酵母とその他のSaccharomyces cerevisiaeと同じですが、明らかにビールの酵母とは発酵時の香りの特徴が異なります。清酒酵母の中にも色々な種類の酵母がいるので、お酒の種類は無限大です。それはビールにも言えることです。
僕は自然の中からお酒に使えそうな酵母を探し出し、日本酒作りに挑戦するのですが、これがかなり難しい。一般的に Saccharomyces cerevisiae の分離は比較的難しいと言われています。だってどこにいるか見えないのですから。
酵母はどこにでもいるのですが、お酒に使える酵母はどこにでもいるわけでなく、最初は失敗だらけでした。(時には病原菌の酵母を分離したりしました。)
野生酵母で有名な東京農大の研究室では良い酵母を分離するノウハウがあるのですが、僕はやったことがないし、教えてくれる人もいない状況で試行錯誤の日々でした。
ある日、ビール旅行で岐阜県を訪れた時、現在は辰巳蒸溜所のオーナー(東京農大出身)がこぼこぼビールのブルワリーで働いており、たまたま出会って、野生酵母が取るためのノウハウを教えてもらいました。
実際にその方法を試してみたら、一発目でお酒に使われているSaccharomyces cerevisiae が分離出来てしまったのです!
その酵母を使って、酒蔵に小バッチでお酒を仕込んでもらったところ、甘口のいい感じのお酒になったので、実際に製品化して頂きました。
この経験は自分の中ではとても大きかった。いつかまた、その地域にいる酵母単離してビールを作りたいと思っています。